気ままな刑事のJ.B.ハロルドさんへ
ハイ、J.B、ごきげんいかが? マンハッタンには無事ご到着かしら。今はちょうど夜の11時。わたしはこうして手紙をかいているところ。そして、きっとあなたは例の「BREATH」っていうバーで飲んでいるところね。
安心してちょうだい。あなたのいないリバティタウンは今のところ、とっても平和よ。事件らしい事件も起きてないし、刑事部屋のみんなも暇を持て余しているくらいだわ。(こんなことなら、わたしもいっしょについて行けばよかったたんて、ふと思ったりしてみて)もっとも、前触れもなしに突然休暇をとってニューヨークに行ってしまった誰かさんのおかげで、テイラー部長のごきげんだけは限りなく最悪! 『J.B、帰ってきたら、ただじゃすまんぞ!』この台詞、いったい何回聞かされたことかしら。こうなると、あなたのデスクに部長のピストルが撃ち込まれちゃう日だって、そう遠くはなさそうよ。覚悟して帰ってきてね。それじゃあ、頼まれていたサラ・シールズについての調査報告するわね。
フルネームはサラ・J・シールズ。年齢24歳。(同封の写真は23歳当時のもの)血液型A型。出身地ニューヨーク。職業ピアニスト。犯罪者名簿に該当するデータはなし。
マンハッタンのダウンタウン生まれ。10歳のときに両親が離婚、母親に引き取られる。16歳のときには母親が失踪(つまりまあ、若い恋人と駆け落ちしちゃったってことね)、それからは一人で各地を転々として暮らす。20歳の頃にリバティタウンに現われ、酔客相手にピアニストとして働きはじめる。勤務先での評判は良く、金銭的なトラブルを起こしたこともない。半年前に、勤めていたパブのマスターに「マンハッタンで母親といっしょに暮らすようになった」と言って店をやめている。その後、連絡なし。
家族については、幼い頃別れた父親のリチャード・クリスティは、現在マンハッタンの5番街で貴金属店を経営。母親のクラウディア・シールズは依然消息不明。他に兄弟はいない。
これがリバティタウンに残されていた彼女に関する全情報。残念だけど、今のところこれだけしかわからない。彼女と親交のあった人間はあまりいないし、彼女自身、自分のことはほとんど話さないタイプだったから、思うように情報が集まらないの。とにかく調査のほうはこのまま続けるから、何かわかればジャドの事務所に連絡するわね。
それから、あなたが出かけたすぐあとに電話があったわ。「ニューヨーク・マガジン」の記者でピート・ギルフォードという人からよ。大学時代のお友達なんですって。あなたのマンハッタン行きを話したら、仕事場に寄ってくれるよう伝えてくれって頼まれてたわ。雑誌社の住所はパーク街47丁目、あなたにぜひ会いたいそうよ。以上で、報告はお・わ・り!
ねえ、J.B、今あなたが考えていること、わたし当ててみましょうか。それは、きっとこうね。「サラ・シールズ事件の真相は、必ず最後まで突き止める。それまでは帰らない」って。ねえ、当たったでしょう。だって、あなたってそういう人だもの。でも、お願いよ、ひとつだけ約束して。どうか無理はしないで、無事に帰ってきてほしい。わたしにはそれだけが心配なのだから。
それじゃあ、ミスター、ジャド・グレゴリーによろしく。おやすみなさい。
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P.S. J.B、あなたのいない金曜の夜は少しさびしい。